■ レーザーの概要
1.レーザーの特質

我々が日常よく接している太陽、電灯、炎などから出る自然光に対して、レーザー光は何が異なるのか。いわゆるレーザーディスプレイに使われる可視光レーザーの出力は、普通数mWから強いものでも20W程度である。照明用ランプが数十Wからキロワット級のものがごく当たり前に使用されていることに比べれば、レーザー光の光出力はかなり小さいものである。しかし、電灯に与えられる電力はまず熱と光に消費され、しかも周囲に拡散する為、人間に当たる光の放射照度(単位面積当たりに受ける放射パワー)は極めて小さくなる。レーザーではその性質上、電灯の光とは比べものにならないほど絞られたまま進行し、人間に当たる光の放射照度が大きいのである。数mWの出力を有するレーザーでさえ多少の距離を隔てても、その照射照度がほとんど変わらない為、レーザービームを直接のぞきこんだ場合、眼に傷害を与えるかどうかについて予め検討しておく必要がある。つまり、レーザーは自然光と異なる特質を有しており、その取扱いには特別な注意を要するわけである。



2.レーザーの原理

このようなレーザーの特質を理解する為に、その光が生じる原理を簡単に説明する。レーザー(Laser)の語源は、"Light Amplification by Stimulated Emission of Radiation"の頭文字を綴ったもので、「誘導放射による光の増幅」という意味である。

図:レーザーの原理

原子は上図のように、原子核の周りの半径rなる軌道上を、電子eが円運動している。電子の持つエネルギー、つまり位置エネルギーと運動エネルギーの総和は、連続的な値をとるわけでなく段階的な値を取る。このように段階的な軌道上に電子がある状態を定常状態という。電子の質量をm、周回角速度をωとして、軌道の一周(2πr)に運動量(mrω)を乗じた作用積分が、ブランク定数(式:ブランク定数)に整数(n)を乗じたものと同じときのみが定常状態になれる。
式:定常状態

ちなみに、n=1が最もエネルギー準位の低い状態で、これを基底状態と言う。 電子が定常状態にある場合に光を出すようなことはないが、原子が外部から電磁波などのエネルギーを吸収すると、電子は低いエネルギー準位(定常状態)から高いエネルギー準位に移る。これをポンピングされると言い、この状態を励起された状態という。この状態は比較的不安定な状態であり、すぐに低いエネルギー準位に戻ろうとする。これを遷移すると言い、このとき固有のエネルギー差に相当する光を放射するわけである。今エネルギー準位の高い方のエネルギーをE2、低い方のエネルギーをE1とすると、放射される光の振動数νは、式:ボーアの振動条件で示され、これをボーアの振動条件という。従って、レーザー遷移ではその時の状態に固有の振動数、つまり固有の波長の光を放出する。この現象を自然放射という。放射された光は同じように励起されている他の原子を刺激して、全く同様の遷移を誘発する。これらの放射された光と誘導されて放射される光とは振動数、言い換えれば波長が同じでその光波の位相、進行方向、偏向状態も同じものである。以上の現象が光の誘導放射と呼ばれる原理である。レーザー発振を得る為には、自然放射と吸収を超える頻度で誘導放射が起こる可能性をつくることが必要となる。低いエネルギー準位に電子がある原子の数より、高いエネルギー準位に電子がある原子の数が多い状態を反転分布という。この反転分布状態を継続させることにより、レーザー発振が実現されるのである。



3. レーザーの構造

レーザーディスプレイに通常使用されるガスレーザー発振器の構造は、基本的にガスを封入してあるレーザー管と、それに反転分布を起こすのに必要な放電をさせる為の電極から成る。また、レーザー管の両側に光共振器が配置されており、それにより光増幅が行われる。以下にその構造概念図を示す。

図:レーザー発振器の構造概念

レーザー管に定格の電流を放電させると、レーザー管内部には強いプラズマが生じる。このプラズマ中の自由電子が原子と衝突して、励起状態が得られるわけである。所望の波長に対して、極めて高い反射率を有する一対の反射鏡から成る、光共振器の間で光が往復するうちに、光の増幅が行われ、その一部が外部にレーザー光として取り出される。数W出力のレーザーでは、レーザー管全体の温度上昇が大きい為、水冷システムを付加することが一般的である。



4. レーザー光の性質及び特長

[1] コヒーレンス(可干渉性)

レーザー光は誘導放出の増幅によって生ずる光である為、その原理上、位相が整然とそろった規則正しい電磁波である。従って、この波を合成することにより振幅の大きい、つまり出力の大きい波を得ることができる。これをコヒーレントな性質(可干渉性)と言う。

[2] 単色性

レーザーの発振は、原子の持つ飛び飛びのエネルギー準位間の遷移により起こるわけであり、発振条件を満たすその原子固有のエネルギー準位間でのみ発振可能となる。つまり、それによって生ずるレーザーの波長は、レーザーの種類によって固定されている。以下に、レーザーディスプレイ用に使用される代表的なレーザーを示す。当然利用される発振波長は、可視域の400nm(青)〜700nm(赤)である。

レーザーの種類 発振波長(nm) 出力レベル 特長
ヘリウムネオン(He-Ne) 632.8(赤) 0.5〜50mW 小型、小出力、長寿命
アルゴンイオン(Ar+) 488.0(青)、514.5(緑)
その他4〜8本
10mW〜25W 大出力、強制空冷、水冷、大電力必要
クリプトンイオン(Kr+) 647.1(赤)、568.2(黄)
その他約8本
10mW〜6W 色が豊富、水冷、大電力必要

アルゴンやクリプトンなどのイオンレーザーは、可視光の中で多数の発振波長を持つ。レーザーは元々共振器内での増幅により固有波長の発振を促すものである為、エネルギーの分布は特定の発振波長にのみ集中する。太陽、電灯のような自然光とレーザー光とのエネルギー分布の関係を示すと、下図のようになる。

図:自然光とレーザー光のエネルギー分布の関係

自然光をフィルターなどによって分解した光に比べれば、レーザー波長の幅は非常に狭く、且つ波長当たりのエネルギーは巨大である。これがレーザー光の特長の1つであり、この性質を単色性に優れていると言う。

[3] 指向性

レーザー光は位相の揃った非常に乱れの少ない波である為、遠距離に飛ばした場合、極めて拡がりの少ないビームとなる。この度合いを指向性という。光の波動性を考えると、レーザー光の拡がりは光の原理に基づく回折により、拡がり角θはレーザー発振器の開口径をD、発振波長をλとして、

式:レーザー光の拡がり角

となる。このθは拡がりの上限を示すもので、この値が小さいほど指向性が良いことになる。アルゴンレーザーの青い色(λ=488nm)で考えると、レーザー発振器出口のビーム径Dが2mmの場合、

式:レーザー光の拡がり角(青の場合)

となる。従って、100m先ではビーム径は5mm位にしか拡がらないことになる。 レーザーディスプレイが効果を発揮する最大の理由が、このレーザーの指向性に優れた点であり、長距離を飛ばしても細い光束が維持される。光量の損失は光路の途中にある埃、水蒸気などの微粒子による散乱のみで、レーザー発振器からの光を100m先で直視した場合、前述のように5mm位のビームは人間の瞳の開口径7mmに全て入ってしまうことになる。レーザーディスプレイ装置では、光軸出し、ビーム偏向の為、レーザー発振器のあとに反射鏡を幾つか使用している。反射鏡の反射率と面精度に限界があるので、実際のレーザーディスプレイにおいては、光量減衰、拡散の影響で単位面積当たりのパワーが小さくなり、またビーム径も瞳の径よりも大きくなり、その分安全性が増すのが一般的である。しかし、本質的に見えるようなシャープなレーザービームを使用することが大事である為、数W出力のレーザーを使ったレーザーディスプレイでは、ビームが直接人に当たることがないように措置されるべきである。
レーザー光の光路が横の方向から見えるのは、前述のように微粒子により光が散乱される為である。また、レーザー光が壁に当たって点として見えるのも、反射散乱される為である。レーザーディスプレイに使用するような数W出力のレーザーにおいて、散乱された光は数十Wの電灯の光を見ているようなもので、本来全く危険がないと言える。