Laser Art & Science Association/レーザーディスプレイの安全運用
レーザーディスプレイの安全運用
1. レーザーの安全な使用法

レーザーディスプレイで使用されるレーザーは、可視光つまり波長400〜700nmのレーザー発振器で出力約20W程度のものである。レーザーに関する安全基準は、あらゆる種類のレーザーについて詳細に述べられており、その中からレーザーディスプレイとしてどの範囲を考えなければならないかを、整理してまとめておく必要がある。レーザー傷害の対象となるのは、観客、出演者および操作者自身である。レーザーによる事故の可能性としては、眼を主体とした人体傷害と、火災の危険性とに大別することができる。



2. 火災に対する注意

レーザーにより物が燃えるのは、どのような場合かを述べてみる。2W出力のビーム径1mm、拡がり角0.8mradのアルゴンレーザーを例にすると、そのレーザー出口付近に白い紙をあてても何の変化も生じない。但し、少し色がついた紙や灰色の紙をあてると、1秒ぐらいで煙が出てまもなく小さな穴があく。レーザー発振器から10mの距離では、ビーム径が約10mm程になり、エネルギー密度は100分の1になってしまう。10mも離れると、10W出力のレーザーでも黒い紙に変化を与えることができない。

レーザーディスプレイシステムは、前述のように幾つかの反射鏡を通ってビームが拡散、減衰すること、光が静止することなく常に動いていることを考えれば、更に危険性は少なくなるといえる。従って、出力10W以上のレーザー出射出口から数mの範囲で燃えやすいものを置くことさえ注意すれば、まず火災の危険性はない。実際、レーザーによる火災発生の事例は諸外国においても報告された例がない。



3. 人体傷害の防止

人体に対する傷害を防ぐ最善の手段は、レーザー光が人体に当らないようにすることである。レーザーディスプレイを見るということは、散乱されたレーザー光を見るのであって、直接光を見るのではない。鮮やかに見えるレーザー光の軌跡は、あくまで空気中に漂っている塵や埃などの微粒子によってレーザー光が散乱されたものであって、人間の眼に届く光の量は極く僅かであり、危険性は全くない。つまり、レーザーを安全に使用することは、常にレーザーの直接光が人体に当らないようにすることである。

それでは、レーザーの直接光が人体に当らないようにするにはどうすれば良いかを考えてみる。レーザーの照明光としての使い方には2通りあり、1つはレーザーを鏡やプリズムを使って反射、屈折させ、空気中を飛ぶレーザー光の軌跡を見せるビームパターンであり、もう1つは壁面などに様々に変わる模様の図形、文字などを描かせるグラフィックパターンである。観客や出演者の頭の上にレーザー光を通す場合の基本は、次の通りである。

  1. 人体の届かない高さに飛ばす。これはあらゆるケースを想定し、椅子の上に立ち上がったり、飛び上がっても届かないだけの高さを確保しておく必要がある。
  2. 光学系等の故障時にも、光が誤って人体に当らないようにしておく。ミラーを使って折り曲げたり、走査光学等を使って光を振りまわす場合、これらの光学系等が故障したとしても、光の角度が観客側に向かないように光学系等を設計するか、万が一向く危険性がある場合は遮蔽板を設け、観客の方向へ向かう光を遮断してしまうような配慮が必要である。
次にグラフィックパターンの場合について考えてみる。ディスプレイに使われるスクリーンはできるだけ明瞭な像が映るよう白色等に近く、場合によっては特殊反射加工したものが用いられるのが通例である。つまり、スクリーン面での光の吸収をできるだけ少なくし、反射光をできるだけ多くして観客の目に入る光の量を多くすることにある。

しかし、レーザーディスプレイにおいて、この考え方は必ずしも当てはまらない。特定方向への反射強度が強いスクリーンを用いることは、危険が伴うことも考えられるからである。例えば、屋外広告で建物の壁面を使ったディスプレイをする場合、ガラス窓に当たったレーザー光が、散乱されることなく反射して、直接目に飛び込むようなことも考えられる。また、劇場内などでもレーザービームを適当に振りまわした時、建物の構造物である金属やガラスなどに当たったレーザー光が拡散しないで、直接光として反射されることもあり得る。

映画用のスクリーンや均一な壁面に投射する場合は、レーザー光は拡散反射する為、レーザーの直接光が反射するようなことはない。この場合、人の目に戻ってくるレーザー光量の解釈は、直接光によるMPEと違って、拡散反射光に対するMPEという別の次元からのMPEを適用される。これは、拡散反射によってレーザー光の性質が大幅に損なわれる為、安全度が高くなったことにより数値が緩和されるものである。この場合のMPEは、拡散反射面を見通す角度なども関係し、もちろんスクリーンの反射率によっても危険度の程度が変わる為、簡単に数値を提示することができない。しかし一般的に、通常用いられている照明光源用レーザーでディスプレイを行っている場合には、直接反射光さえなければまず安全といえる。レーザーの操作者が、危険性を防止する為の諸注意を次にあげる。

  1. レーザー光の危険度について認識を持った者のみにしかレーザーの操作を許さない。
  2. レーザー発振器から最初の光学系への導入路の周りに囲いを設け、物理的にレーザー光に近づけないようにする。
  3. 危険性の表示を行い、常に注意を喚起する。
  4. レーザー光の想定される光路を覗き込まない。
  5. 調整はできるだけ明るい所で行う。
以上のような注意をはらえば、レーザーによる人体傷害はまず完璧に防止できる。