■ レーザーの安全管理
1. レーザーによる傷害

レーザーによる傷害の危険性としてまず考えられるのは、機器自体の取扱いに関わることである。例えば数W出力のアルゴンレーザーでは、数百Vの印加電圧で20〜40A位の大電流を流す為、電源の容量が非常に大きい。他の高圧作動機器と同様に、感電あるいは漏電に注意する必要があるが、取扱要領に従って正しく使用すれば基本的に安全は確保できる。レーザーの傷害で最も問題となるのは、前述のようにレーザー光自体の極めて高い指向性による大きなエネルギー密度である。傷害の対象としては、大別して皮膚と眼である。レーザーディスプレイに使用されるレーザーでは、数百mWのものを近くで直接皮膚に受けると熱さを感じ、数Wのものを近くで受ければ火傷を負うこともある。眼の場合は更に危険で、レーザー光が直接目に入ると、下図に示すように水晶体で集光され、網膜上に焦点を結ぶ。従って、網膜上に巨大なエネルギー密度の点が生じ、レーザーの出力によっては視神経焼損、失明といったおそれも出てくる。

図 レーザー光が直接眼に入った場合



2. レーザーの安全管理基準

レーザーの安全に関する規格、法規、ガイドラインは、各国で審議整備されつつあるが、それらを参考として我が国では、以下の2つの基準がある。

  1. 労働省労働基準局長より各都道府県労働局長あて通達
  2. 基発第39号(昭和61年1月発行)
  3. 「レーザ光線による障害の防止対策について」
  1. 日本工業規格 JIS C 6802(昭和63年11月制定)
  2. 「レーザ製品の放射安全基準」


3. レーザーのクラス分類

これらの基準におけるレーザーのクラス分類は、もともとレーザー使用者に対し、使用するレーザー機器が眼の障害についてどの程度の危険度をもつものかを明示することを目的として定められたもので、可視光レーザーのクラス分類は下表のようになっている。

クラス レーザー出力 意義
クラス1 0.39μW以下 レーザーとして特別な取扱いが不要な、本質的に安全なレーザー。
クラス1M   合理的に予測できる運転条件下において安全であるが、使用者がビーム光路上で
光学器具を使用する場合には、危険となり得る。
クラス2 1mW以下 まばたきを含む回避行動によって目が保護される400nm〜700 nmの波長範囲の可視光を放出するレーザ。まばたき回避行動により、光学器具の使用を含めた合理的に予測できる運転条件下において十分に目が保護される。
クラス2M   まばたきを含む回避行動によって目が保護される400 nm〜700 nmの波長範囲の可視光を放出するレーザ。しかしながら、使用者がビーム光路上で光学器具を使用する場合には、レーザ光の観察が危険となり得る。
クラス3R 5mW以下 光路上で直接ビームを観察することは潜在的に危険であるが、その危険性はクラス3Bレーザよりも低い。
このクラスのレーザでは、製造に対する要求及び使用者に対する規制対策が、クラス3Bレーザに比べて緩和されている。被ばく放出限界AELは、400 nm〜700 nmの波長範囲では、クラス2のAELの5倍以内であり、他の波長に対しては、クラス1のAELの5倍以内である。
クラス3B 0.5W以下 直接のビーム露光が通常危険となるレーザ。 拡散反射の観察は、通常安全であ
る。
クラス4 0.5W以上 拡散反射光でも眼に傷害を与える可能性のあるレーザー。

レーザー光による障害を考える上で、障害が現れるレーザーのエネルギー密度あるいはパワー密度がどれ位かということが重要である。レーザー光が人体に影響を与えるのは、外界にさらされている眼と皮膚である。従って、レーザーの安全基準においては、眼と皮膚各々について許容されるレーザーの最大許容露光量(Maximum Permissible Exposure:MPE)が定められている(JIS参照のこと)。レーザーディスプレイでは可視光レーザーを見せる為、波長400〜700nmのレーザーの眼に対するMPEが適用される。レーザー放射を直接見つづける場合を考えると、例えばアルゴンレーザーの波長488nm(青)・514.5nm(緑)では、波長400〜500nm、露光時間式:露光時間に相当するMPEとして、式:MPEが与えられる。レーザービーム径は眼の限界開口7mm以下なので、その面積で平均化することができ、MPE値に面積式:面積を乗じて、0.39μWを得る。すなわちこれがクラス1の最大レーザー出力となる。同様に、可視光レーザーはどこまで眼に対して安全かを考える。可視光レーザーが目に入ると、眩しくて思わず瞼を閉じてしまう。その嫌悪反応に要する時間は0.15〜0.25secである。従って、露光時間は式:露光時間に相当し、MPEとして式:MPEが与えられる。MPE値に眼の限界開口の面積を乗じて、t=0.25secで割れれば、許容されるレーザーパワーPmaxが求められる。すなわち

式:レーザーパワー(Pmax)

これがクラス2レーザーであり、可視光レーザーを眼にまともに受けても眩しさで目を閉じて安全である。レーザーのクラス分類表出力にあるレーザー出力とは、レーザー発振器そのものの出力の目安である。レーザーディスプレイに使用されるレーザー発振器は数百mWから数W程度のものが多く、レーザー発振器単体では大体がクラス3Bあるいはクラス4に属する。但し、レーザーディスプレイシステムとしては直接光が観客に当たらないようにし、クラス3B相当が確保できるのもでなければならないと考える。またレーザーディスプレイの効果により、レーザー光の一部が観客に当たるようなことがある場合、例えばミラーボールを使用するような場合には、クラス3A相当が確保されるように運用されるべきと考える。